2016年5月18日水曜日

【書評】柳広司『百万のマルコ』(創元推理文庫)

ナゾナゾを解く面白さ


 『ジョーカーゲーム』でブレイクする前の柳氏の作品。史実と虚構をうまくミックスさせて舞台を作り、シンプルな謎を投げかける。柳氏の原点とも言える手法だ。
 謎解きが本作のキモなのだが、その謎が単純というかナゾナゾ的なのが面白い。子どものころ、ナゾナゾに頭をひねった感覚が思い出される。

 舞台は中世ヨーロッパの牢獄。詰め込まれた男たちは、暇をもてあましている。そこに新たに入ってきたのが「百万のマルコ」。本人曰く、東方のフビライ・ハーンに仕え、周辺のエキゾチックな国々を訪れ、さまざまな体験を通して大金を得たのだという。
 その大金を得た過程をマルコが語りはじめる。たとえばこんな感じ。
 マルコがフビライ・ハーンと出会ったときのこと、ひょんなことから馬を競わせることになった。マルコは風来坊で駿馬など持っていない。一方のフビライは騎馬の民の大王。勝負になるわけがない。ところがマルコは
「というわけで私は勝負に勝ち、大王から巨万の富を与えられたのでした」
と話を終える。
「なんでやねんっ」
読者も、牢獄で話を聞いていた男たちも、同時にツッコミを入れる。いったいどうやって勝ったのか。大王の馬に毒を盛るとか、レース中に分からないように妨害するとか、いろいろな説が出るが、どれも不正解。最後にマルコがナゾナゾの答えを出して一件落着。
 こんな小話が13話収められている。ミステリーというよりもナゾナゾ遊びに近いが、それがいい。「やられた」感が気持ちいい連作短編集。




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