2015年8月18日火曜日

【書評】小野正嗣『九年前の祈り』(講談社)

ため息が出る


 2014年の芥川賞受賞作。大分県南部の港町を舞台にした連作集で、四つの短編が収められており、それらが少しずつかかわり合っている。
 発達障害のハーフの子を持つ母親、母が重い病気にかかった無気力な大学生、友人が入院した中年男性など、生きる意味を見失い、人生に疲れた人物たちが、各話の主人公だ。各話とも、重い。読んでいてため息が出る。
 決してスイスイと気持ちよく読める小説ではないが、苦さの中に暖かさが垣間見えることに安堵する。

 大分県が舞台の小説は珍しい。私の母が大分県の生まれなので、興味深く読めた。小野氏はどういう心境で故郷の大分県を描いたのだろう。本書から類推するに、あまりよい思い出はないのかなと思ってしまう。
 しかし大分県は、関サバ・関アジや、ジュースでブレイク中のかぼすなど、海の幸・山の幸がてんこ盛り。さらには別府や湯布院の温泉もあり、とてもよいところである。本書を読んで
「大分県って、暗いのね…」
と思った人は実際に訪れて、そのギャップを体感するのも一興かも。




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