2015年4月21日火曜日

【書評】東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川文庫)

過去と未来の間でやりとりされる人生相談。いい味を出している。


 ナミヤ雑貨店に悩み事を投函すると、翌日に回答が返ってくる。そのアドバイスによって人生が変わった人たちの物語が五つ収められている。

 本書のキモは、回答者が二人(2グループ)いること。一人はナミヤ雑貨店の店主。流行らない雑貨店の老店主が人生の悩みに真摯に答えるという、ありがちな設定だ。
 しかし、回答者がもう一つ設定されているところが面白い。それが無職の若者3人のグループなのだが、彼らは未来にいるのだ。過去から送られてくる悩みに、傍若無人に、しかし真剣に回答する。過去と未来の間に築かれた絆に、心がじんわりと暖かくなる。浅田次郎氏の作品に似た雰囲気を感じた。

 この2種類のアドバイスによって影響を受けた五つの人生が、互いに絡み合い、一つの物語を織りなしていく。最後は五つの人生、いや十の人生が見事につながる。単なる短編集に終わっていないところが、さすが東野作品。月並みだが
「上手いこと考えるなあ」
としか言いようがない。




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