2015年4月8日水曜日

【書評】東野圭吾『天空の蜂』(講談社文庫)

東日本大震災の前に書かれた原発小説


 敦賀の原発上空に、突如、無人運転の巨大ヘリコプターが飛来。犯人は原発を人質に、日本全国の原発を破壊することを要求する。ヘリは落ちるのか、落ちないのか。原発はヘリの落下に耐えられるのか、耐えられないのか。逃げまどう周辺住民と、うろたえる日本政府。ハラハラドキドキのパニック小説…と思わせておいて、それが主題ではないのが東野氏らしい。

 では何が主題なのか。それは、原発の是非だ。東日本大震災後は原発の是非が改めて議論されたが、本作品はその前に書かれたものである。そして、本作品で最も糾弾されるのは「沈黙する群衆」なのだ。
 原発に反対するわけではなく、電気をジャブジャブ使う。原発がなぜお台場や大阪湾にないのか、その意味は考えようともしない。そのくせ、敦賀湾で海水浴をした人が白血病になれば、原発のせいだと断じる。まさに大震災前の、典型的な日本人ではないだろうか。
 スリーマイル、チェルノブイリ、東海村、東日本大震災。いずれまた、原発は事故を起こす。それでも原発に頼るのか、それとも別の道をいくのか。そういう問いを、改めて突きつけられた。東日本大震災前に書かれた作品だということが、逆にリアルである。

 震災後直後こそ原発について盛んに議論されたが、われわれはまた「沈黙する群衆」に戻ってはいないだろうか。




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