2015年2月18日水曜日

【書評】アラン・ワイズマン『人類が消えた世界』(早川書房)

あまりにも大きすぎる、人類が地球に与えた影響


「もし、いま、突然人類が消えていなくなったら」
という仮定のもと、地球がどうなるかを考察するノンフィクション…とあるが、壮大なフィクションであると言ってよいだろう。
 とはいえ本書の試みが陳腐というわけではない。むしろ、おおいに当たっている。本書がベストセラーになったのも納得だ。人類が消滅した地球を考察することにより、人類がいま地球に与えている影響がいかに大きいかが伝わってくるのだ。

 本書ではさまざまな角度から、人類消滅後の地球を科学的根拠によって考察する。都市はどうなるのか、動物たちは新たにどういう生態系を構築していくのか。このあたりは、当然、気になるところだ。都市の場合はニューヨークを例に、生態系の場合は大型哺乳類を例に、人類消滅後の姿を考察(想像)する。その様子は圧巻だ。ニューヨークでは自由の女神が海に沈み、かつて都市であったところには大型哺乳類が進入して繁栄する。
「映像で見てみたいなあ」
と思わせるシーンが続々登場。人類が多大な労力をもって都市を維持し、その結果、動物たちの生存圏が狭くなっていることがよく分かる。

 しかし本書の真骨頂は、そのような大スペクタクルではない。人類が地球に与えている影響は、そのような分かりやすいものばかりではない。人間がいなくなれば、都市が崩壊して動物が繁栄してハッピーエンド、ではないのだ。
 たとえばプラスチックや石油コンビナート。これらはかなりの年月にわたって残存し、生物に影響を与えるだろう。そして、極めつけは放射性物質。これは「億年」の単位で大きな影響を残すことがほぼ確実だ。われわれは、そのようなものを後世に残すことで、現在を謳歌しているのである。バカボンパパでも
「これでいいのだ」
とは言えないだろう。

 しかし、今後も人類がアホなことをし続けても、地球は存在するだろう。温暖化が進もうが、放射能であふれようが、地球には痛くもかゆくもないのかもしれない。偉大な地球に甘えて、しゃぶり尽くそうとしている人類。後戻りはできないが、もう少し賢くなってもいいのかもしれない。




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