2013年11月19日火曜日

書評 吉成真由美『知の逆転』(NHK出版新書)

 1000円以下でこんなビッグネームのインタビュー集が読めるのは日本だけではないだろうか。

 現代の世界的知識人の大御所6人にインタビューし、そのやりとりをまとめた一冊。その6人とは

ジャレド・ダイアモンド
ノーム・チョムスキー
オリバー・サックス
マービン・ミンスキー
トム・レイトン
ジェームズ・ワトソン

という「これでもかっ」という顔ぶれ。内容もさることながら、まずはこれだけのビッグネームを揃えたことに驚く。
 この6人のうち、本書に生年の書いていないトム・レイトンを除く5人は、1920~30年代の生まれ。年齢的にも、大御所と呼ぶにふさわしいメンツである。本書を読む限り、みんな頭脳はまだまだ明晰だ。少し前に
「行動や考えを自由に選択できるということが、長寿命につながる」
という本があったが、まさにその生き証人といえよう。みんな、とにかく発想や行動が自由なのだ。

 各人の専門分野は、歴史、言語、脳科学、人工知能、数学(IT)、分子生物学と、てんでバラバラである。しかし、多くの点で意見が一致しているところが、とても興味深い。たとえばインターネット。インタビュアーの吉成氏は
「インターネットが人のつながりを変えて世界を変える」
的な答えを期待しているフシがあるのだが、返ってくる答えは意外にそっけない。
「たしかに便利だし、人のつながりも変化するのだろうけれど、本質的なことではない」
という感じの反応なのだ。インターネットはあくまでもツール(手段)であるということなのだろう。
 もう一つの例は宗教。(おそらく)6人とも無宗教なのだ。
「へえ、それが?」
と思ってはいけない。彼らは欧米人なのだ。日本人のように、初詣に行ったり、クリスマスを楽しんだりしつつ「宗教は信じていません」などという、ヤワな立場ではないのである。科学は宗教に取って代われるものではないし、多くの人々にとって宗教は必要であるとしつつも、自らは無宗教であるという意見が多いのだ。彼らの年齢も考えると、驚くべき一致である。
 もう一つ、「がんは近々克服できる」という見解が複数見られたことにも驚いた。
 もちろん、意見が異なることもいろいろあるのだが、それは本書を読んで、各人の見解の違いを楽しんでもらいたい。

 最後に、インタビュアーであり、本書をまとめた吉成氏について触れておきたい。
 本書の端々から、吉成氏の博識ぶりとバイタリティがにじみ出てくる。吉成氏のことは本書で初めて知ったのだが、おそらく相当な勉強家で、キレる人なのだろう。吉成氏なくしては、本書の成功はなかったのだと思う。
 ただ、その溢れる情熱が、大御所たちの見解を読者に伝える際のフィルターになっている気がしないでもない。もちろんインタビュー集なのだから、われわれ読者は聞き手を通して情報を得るのであり、やむを得ない部分もある。しかし、吉成氏の色が少し濃く出過ぎているようにも感じてしまう(吉成氏の才気煥発ぶりへの嫉妬もあるのかなあ)。
 そうか。吉成氏も含めた、7名の知識人のコラボレーションと思って読めばよいのだ。



【送料無料】知の逆転 [ ジャレド・ダイアモンド ]
【送料無料】知の逆転 [ ジャレド・ダイアモンド ]
価格:903円(税込、送料込)(楽天ブックス)

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿

【お父さんの週末料理】2024年4月13・14日<small>~葉っぱで巻き巻きしました~</small>

 わが家では土曜、日曜の晩ご飯は主に父(私のこと)が担当している、そのメニューを絶賛(?)公開中、  家族構成は父(アラフィフ)、母(年齢非公表)、娘(高2)、息子(中2)の4人、  今週も娘は部活、息子は野球の週末。  4月13日(土)   娘は午前と午後で部活を掛け...