2013年3月1日金曜日

書評 飛鳥井千砂『海を見に行こう』(集英社文庫)

 ちょっと苦く、でもほのぼのとした話が六つ収められた短編集。それぞれの話に海が絡んでいるのが特徴。また、六話とも男女関係がテーマになっており、中学生の恋愛からアラフォーの夫婦関係まで、さまざまな男女のかかわりが描かれている。

 冒頭に収められている『海風』は、高校を出て駆け落ち同然に家を出た茜という女性の物語。茜本人は信念を持って動いているつもりなのに、端から見ればフラフラしている、という様子がよく伝わってくる。駆け落ち相手と仲違いして家を出た茜は、親戚の経営する海辺の民宿へ向かう。ところがその民宿はラブホテルに変わっており、そこで働くことになる。ラブホテルで働く茜の心をよぎるさまざまな思いに
「そうそう」
と相づちを打ちたくなったり
「それは違うやろ」
と突っ込みたくなったりする。
 そんな雰囲気の話が六つ並べられた一冊だ。

 作者の飛鳥井氏が私とほぼ同世代ということもあり、登場人物たちの心情がダイレクトに心に響く。
「その感じ、よく分かる」
と相づちを打ちたくなるシーンが多々あった。

 本書の印象をひと言で言うなら、「セピア色」だ。
 海の登場する、暖かいけれどちょっとはかない、セピア色の物語。読み終えると、何だかふんわりとした気持ちになった。




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