2013年2月14日木曜日

書評 新田次郎『アラスカ物語』(新潮文庫)

 1900年代の初め、ゴールドラッシュに湧くアラスカで、エスキモーの民を率いて安住の地に導いた男がいた。「エスキモーのモーゼ」と言われたその男は、フランク安田という日本人だった。その数奇な運命を描いたノンフィクション。

 安田恭輔は医者の家に生まれたが、三男だったこともあり医者にはなれず、アメリカへ渡る。その後、フランク安田と名前を変え、アラスカのエスキモーたちとともに暮らすことになった。そしてエスキモーの伴侶も得て、次第にエスキモーの一族のリーダーになっていく。
 そんなとき、アラスカで金が出た。ゴールドラッシュに湧くアラスカ。エスキモーたちの主食であるクジラやカリブーは乱獲により獲れなくなり、アラスカの民たちは飢えていく。
 そのエスキモーたちを救うため、内陸の地へと移住を試みた日本人の物語だ。

 本当に実在の人物なのか。数奇な運命もさることながら、その献身ぶりに心を打たれる。
「おれは日本という国から来たエスキモーだ」
と、自らを日本人ではなくエスキモーと名乗るのがかっこいい。
 極北の地で、さまざまな人物たちの協力を得てエスキモーの一族を導いた男の生き様を読むと、自分の小ささを感じてしまう。

 それまでは平和な村だったエスキモーの集落が、船の発達やゴールドラッシュにより、急速な近代化を迫られる。現代の「グローバリゼーション」と同様のことが、約一世紀前にもあったということなのだろう。
 変化する時代の中で、信念を持ち、実行する人物の生き方は、現代のわれわれにも道しるべとなる。時代や環境のせいにしていては、何もできないのだ。

 ただ、ちょっと読む時期を間違えた。2月初旬という真冬の時期に読むには、あまりにも寒い作品だった…。夏に読めば節電になったのになあ(そんなアホな)。




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