2012年12月12日水曜日

書評 松井今朝子『一の富 並木拍子郎種取帳』(ハルキ文庫)

「ちと、面白いことがござりました」
が決まり文句の時代物ミステリー。
 舞台は江戸時代。人気狂言作者に弟子入りした並木拍子郎(なみきひょうしろう)というヤサ男が主人公。見習いである拍子郎は、師匠の並木五瓶(ごへい)から
「いい話を書こうと思ったら、常にメモ(種取帳)を持ち歩き、町の面白い話を拾ってこい」
と命ぜられる。
 しかし、拍子郎が首を突っ込む話はなぜか事件ばかり。種取帳も、話のネタ帳というよりも捜査手帳のようになってしまう。そんなこんなで、いつの間にか事件に引き込まれてしまう拍子郎が、師匠、その奥さん、近所の料理旅館の少女らとともに事件を解決する。こんな短編が五つ、本書には収録されている。

 作者の松井氏は松竹に入社後、歌舞伎座の企画・製作に長年携わってきたという経歴を持つ。その経験から得た知識やうんちくが本書の骨格をなしている。江戸時代の歌舞伎小屋周辺の庶民の生活がリアルに、生き生きと描写されているのだ。
「なるほど、江戸時代の生活って、こんな感じだったのかなあ」
というのがよく分かる。

 これが本書の土台とするなら、その上に立つのがミステリー。女将の不倫、幽霊騒動、金貸し婆さん殺人事件、繊維問屋の大将の誘拐事件、宝くじにまつわる失踪事件、の五つの事件がそれぞれ解決される。
 アッと驚く結末こそないが、しっとりと落ち着いたかたちで事件は幕を閉じる。オチに無理もなく、心地よい読後感だ。
 土台となる歌舞伎・狂言と、その上に立つミステリーともに質が高く、安心して読める小説だ。

「歌舞伎・狂言+歴史物+ミステリー」。この組み合わせに「おっ」と思う人は買いだ。




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