2011年12月10日土曜日

書評 吉田直紀『宇宙で最初の星はどうやって生まれたのか』(宝島社新書)

 今年の夏に、村山斉さんの『宇宙は何でできているのか』(こちらもお勧め)を読んで
「分かりやすいなあ。宇宙物理学や素粒子の話を、こんなに分かりやすく書ける若い人がいたのか」
と驚いたのものだが、今回はさらに驚いた。村山さんよりも若い吉田さんが、村山さんよりもさらに分かりやすい宇宙の本を書いてくれた。科学啓蒙書は年配の人のほうが分かりやすく書けると思っていたのだが、この二人が例外なのか、時代が変わってきているのか。

 本書の序盤では、宇宙についての基礎知識と、天文学の歴史が述べられている。こういう導入の章を設けたのも、分かりやすさに一役買っている。
 そして第3章には、タイトルそのまま「宇宙で最初の星はどうやって生まれたのか」が書かれている。本書の中心といってよいだろう。ビッグバンによって素粒子が生まれ、そこから水素とヘリウムができ、それらがダークマターによって集合して最初の星ができるという過程が、手に取るように分かる。
 次の第4章は、吉田さんがどのような研究手法によって最初の星のでき方を調べたのかが述べられている。自分の研究成果や苦労話をひけらかすような自慢話は一切なく、N体シミュレーションという手法を、素人にも分かるように説明している。

 この第4章までで、本書の目的(最初の星がどうやってできたかの解説)は大方達成されている。では、残りの章は蛇足なのかというと、とんでもない。特に第5章は必読である。この章には「最初の星」の研究に一区切りをつけた吉田さんが、次なる研究課題を探っている様子が書かれている。その内容に感心した。
 多くの科学者は、目の前の研究課題をこなすのに必死で、自分の研究がその分野でどういう位置にあるかなどには、なかなか考えが及ばないようだ。それほど熾烈な世界だということもできるだろう。
 ところが吉田さんは、自分の研究分野の歴史において、自分の研究がどのような位置にありどのような意味を持つのかを、この章で明確に語っている。簡単なようだが、なかなかできないことだと思う。自分の立場に置き換えてみても、私のいる業界の歴史の中で、私のしている仕事がどのような位置にありどのような意味を持つかなど、あまり考えたことがない。そりゃ、一流になれないわけだよなぁ…。
「自分の仕事(仕事だけじゃないか)に対して鳥瞰図的な視点を持つことは大切だよ」
と教えてもらったように思う。

 科学啓蒙書はえてして、われわれ素人にも分かりやすいように書くと「厳密には間違っている」ような説明にならざるを得ず
「科学者として、間違ったことは書けない」
と仰る先生方も多いのだが、吉田さんはそんな壁をいともたやすく乗り越え、自分の研究内容や研究への思いを平易に語ってくれた。これからも、このような人がどんどんでてきて、分かりやすく科学を伝えてくれると嬉しい。



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